スポーツ選手やコーチが引退し、その世界から離れると、そこには勝利や歓声とはほど遠い苦労の絶えない暮らしが待っている。VリーグやAFFスズキカップ優勝メンバーですら、第2の人生で失敗する人は少なくない。
■精進料理の食堂で
サッカー界で、クラブ「Dong Tam Long An」の元監督Ngo Quang Sangさん(45歳)の人柄と、菜食主義はよく知られるところだ。
「私は菜食で、よくお寺にも行きますが、それでも天から見放されています。2月19日にThong Nhatスタジアムで行われたVリーグ第6節、『ホーチミン市』との試合でのプレー放棄で、3年の資格停止処分を受けました」
もともとはDong Tamタイルの積み下ろし労働者だったが、1999年からアマチュア選手としてサッカーを始め、チームの優勝に貢献した。プロに転向してからはキャプテン兼MFとして活躍。選手を引退してアジアサッカー連盟(AFC)主催の国際コーチ育成コースに参加し、2013年からあの事件までは「Long An」の監督だった。
あの事件以来、彼は自宅で毎朝コムタム(砕き米ご飯)やフーティウを出す菜食食堂を営む妻を助け、午後はLong Anチームの若手を育てている。
Ben Luc町のはずれにある小さい店は、その美味しさゆえに客で賑わい、夫婦はいつも忙しく、朝7時だというのにもう額に汗が滲む。「幸運だったのは、家族がこの小さな食堂をやっていたこと。これがなかったら何をしていたか……慣れた仕事ではありませんが、生活費を稼ぐ仕事があったのはよかった。2人の息子と年老いた両親のために収入を増やしたい妻の手助けにもなっています。今の夢は、処分が軽くなってチームに戻ることですね」。
■喫茶店経営、低収入でも生活は安定
スポーツ選手全般に言えることだが、引退後はトレーニングしなくなるため、選手時代のようにスリムで頑丈な体を維持できる人は少ない。
だが元MFのNguyen Hoang Thuongさん(35歳、Binh Dinh、Long Anでプレーし、U23代表でもあった)は別だ。グラウンドを離れ9年たつ今も、選手のような逞しい体を維持している。
Ben Luc町のNguyen Van Sieu通りに400m2ほどののどかなガーデンカフェを営む彼は、一人で、ドリンクの用意からサービス、接客、会計、片付けまで多くの仕事をこなす。カフェは朝6時から夜8時まで営業し、毎日十キロ前後は動き回る。「選手時代のような体を維持できているのは、多分このおかげでしょうね」と嬉しそうに話す。
2011年、30歳を目前に引退を決めた。当初は夫婦で衣料品店を開いたが、収入は安定しなかった。そこで家の周りの広く空いたスペースを利用してガーデンカフェを開いてみることにした。庭は静かで風通しがよく、カフェはこの6年ずっと、人々の約束の場になっている。客にはトップレベルのサッカー選手も少なくない。
毎日客が集まり、Vリーグからチャンピオンズリーグまでサッカー談義に花が咲く。「接客や準備に忙しくても、朝っぱらから試合で起きている揉め事の状況説明に呼ばれますよ。疲れますが楽しいです。自分の専門的な説明で、お客さんが気を良くしてくれるんですから」。
毎日カフェでは2キロ超の豆から約90杯のコーヒーを淹れる。1杯8,000?12,000ドン、稼ぎは小さいが、生活は安定して幸せだそうだ。「引退後、いまだに生計を立てられない仲間もいますので、僕はラッキーな方だと思います」と彼は話した。
■苦労続きの人々
Binh Thuan省の能力開発センターで育ち、その後Dong Thapチームに所属、Long Anでは2005、2006年に国家杯とスーパーカップで優勝したThanh Trucさんは、「引退後、結婚してBen Lucでアルミ戸やガラス戸を作る仕事ができたのは幸運でしたが、今は仕事をしていません。実は仕事はたくさんあるんですが、終わった後の代金回収が本当に大変で、いつも何のかんのと結構な金額を払ってもらえないんです。他の仕事で生計を立てたいんですが、まだ出口が見つかりません」と話した。
2008年ベトナム代表、AFFスズキカップで優勝したDF・Huynh Quang Thanhさんは今年2つの不幸に見舞われた。
1つ目は、3人の友人と資金を集めてホーチミン市Binh Chanh県Trung Sonの住宅街で串焼き屋を開き繁盛していたが、契約期限が来ないうちに大家にスペースを取り上げられたことだ。もうひとつは、あの2月19日事件でベトナムサッカー連盟から2年の出場停止処分を受けたことである。