元NHK職員のカトウノリオさんは、ベトナムの言語や文化への造詣が深く、ベトナム人独特の表現方法にも精通している。
彼がベトナム語の勉強を始めたのは40年前、東京外国語大学にベトナム語学科が設立された3年後のことで、当時は珍しい外国語だったという。2004年に退職してから、生活拠点をベトナムに移した。
初めてベトナムを訪れたのは1978年、観光目的だった。日本語の番組のベトナム語への翻訳担当だった彼は、1984年にベトナム語の実習のためハノイを訪れ6カ月間滞在し、1991年からは毎年、NHKの番組制作班に同行して渡越した。
この年、NHKはベトナム戦争に関するドキュメンタリー番組を制作、それをきっかけにホン・センやファム・カックなどの芸術家に出会った。同じ年、ベトナム映画が東京と福岡の映画祭に初出品され、映画監督ダン・ニャット・ミンさんと女優ミン・チャウさんが日本を訪問した。
映画祭を通じてヴィエット・リン、レ・ホアン、ブイ・タック・チュエンなど多くの映画監督や俳優に出会った。日本の映画祭に出品されたベトナム映画は全て鑑賞しているという彼は、「ベトナム映画はこれから飛躍的に発展するでしょう。70年代、80年代生まれの世代が活躍し、越僑の映画監督も帰国しています」と話す。
舞台や文学にも造詣が深く、作家マー・ヴァン・カン氏にも面会している。近現代文学の多くの作品を収集し、蔵書は図書館並みだ。ベトナム文学の発展を間近に見てきた彼は、新しい問題を扱った文学作品があればすぐに読む。
多くの著名なベトナム人作家と親交があり、文学談義に花を咲かせ、酒を酌み交わすこともある。
2000年にレ・ルーの小説『トイ サー ヴァン』を翻訳、出版した。日本の読者の反応を尋ねると、「ベトナム同様、日本でも若者は流行を追い、文学にはあまり関心がありません。ですがこのような文学作品は固定の読者層があります」。
翻訳作品を選ぶ基準は、自分自身が好きであること、さらにその作品を通して日本人がベトナムの習慣や歴史を理解できるものという。
ハノイ滞在が多いカトウさんだが、南部を訪れる機会があれば必ずIDECAFに足を運ぶ。ベトナムジョークに大声で笑う彼が、ベトナム人でないと誰が信じるだろうか。