この20年『サイゴンザイフォン』紙の記者を務め、現在は文化文芸委員会の編集員であり、スポーツコラムなどの執筆で活躍しているグエン・ニャット・アイン氏。青少年向け文学の作家という顔も持ち、1980年代に出版された作品が今も多くの人に読まれるロングセラーとなっている。
そんな彼の作品は、日本と深い縁がある。アイン氏の物語は幅広い年齢層に支持されているが、一般には青少年向けのものだ。以前、日本の出版社が翻訳家・加藤栄氏と協力し、日本語に翻訳する作品を選んだ。そして選ばれたのが、「つぶらな瞳」だった。
しかしこの選択には、多くの疑問も寄せられた。数ある作品のなかで、最も古いものだったからだ。またベトナムでは学生向け書籍だったが、日本でのターゲットは中高年ということだった。しかしながら作品は、日本の人々に印象付けた。
桜の国との初めての出会いが彼の積極的な姿勢からだったとしたら、今回の関係は予期せぬものだった。それはベトナム?東南アジア研究センターが東京情報大学と協力し、日越文化交流の促進を目的に開催した「鼎書房日越翻訳賞」が始まりだった。短編小説を対象にしたものだったが、受賞したのは短編ではなくアイン氏の「幼い頃に戻る切符をください」のなかの2章を翻訳した作品だった。
短編小説ではなく、長編のなかの2章を題材にしたことについて受賞者で人文社会科学大学の学生グエン・ホン・フックさんは、「選んだのは、少女たちがなぜその物や場所にその名前をつけたのか話し合っている部分。その細かな描写が、私に幼い頃を思い出させ、翻訳することに決めました」と話す。
審査委員会はホン・フックさんの翻訳を語彙の変換能力と作品の内容で高く評価し、「受賞者が選んだ作品はとても面白く深い意味のあるもの。受賞者はまだ若く、今後も勉強を続け、多くのベトナムの文学作品を翻訳することを期待します。また作者であるグエン・ニャット・アイン氏に敬意を表します」と述べている。
コンテストをきっかけに審査委員長である松田喜好氏もアイン氏の作品を知ることになった。現在第2回「鼎書房日越翻訳賞」が開催されており、このなかで参加者のミー・ロアンさんが同じ作品の2章を翻訳しているのを知り、松田氏は彼女に文章全体の翻訳を依頼した。
青少年向けの文学者として知られるアイン氏の作品を大人が愛すことにより、日本の国と人との縁がまた繋がった。