2007年6月24日、ホーチミン市でベトナム初の俳句クラブが誕生した。誕生以来、クラブ主事のルー・ドゥック・チュン教授宅(ホーチミン市1区コンクイン通り)には各地の俳句愛好家たちから手紙が寄せられている。
副主事のヴー・タム・フエ化学博士は、俳句に魅せられた理由を
「短い俳句の中に込められたたくさんの心、美しい言葉、息遣いや空気、光といった自然に感銘を受けた。禅の心を詠んだ句に出会うと心が解き放たれ、日々の生活のストレスや争い、プレッシャーが軽減するのを感じ、心の奥に響いてきた。
それから俳句作りの練習を始め、とりつかれたようにいつでも、どこでも、何をしていても俳句ばかり考えるようになった。ようやく詠めるようになり、日本領事館主催の俳句コンテストで三等を獲得できた。間もなく句集も出版します」と話す。
会員は、それぞれ様々なきっかけでクラブに出会ったが、科学者、ビジネスマン、新聞記者、僧侶、学生など文学には特に関係ない人々だ。
だが俳句への想いはみな深い。中でも熱い想いを持つのは70代にさしかかる チュン教授かもしれない。定年退職を迎えた教授は、自らが最も愛する世界である俳句の研究・創作、クラブの設立に全心を傾けた。
句集を出版した人であれ、俳句コンテストで受賞歴がある人であれ、彼らはみな自らを俳人――俳句を詠むインスピレーションを持つ人――であると話す。
彼らは自らを、ただ自然や人を尊重すること、心の動きや美しいものへの愛情を知っているだけで、言葉を操る技能を持っているのではないとしている。
チュン教授は、ココナツジュースを飲み、ふとベトナム人にとって欠かせない大切なココナツへの愛情が沸きおこり、禅の心と含蓄に富んだ俳句を詠んだ。
椰子を飲み 大洋を吸い 天に入る
椰子の形に天の惑星を、ジュースに大洋を見、人は大洋を吸い込む天の塵であるとし、人と自然の間に存在する身近なものの新しい一面を見せている。
また友人から贈られた前世紀から生き続けるガジュマルの木を見て、
根とともに 心も絡む 世紀超え
フエ博士は、20年来そのたたずまいも流れる音楽も変わらないカフェへ行き、かつてそこへ共に通った友人に想いをはせながら、
カフェで会う 往年の歌と 友の影
と詠んでいる。
このクラブの俳句を読むと、あることに気付く。日本語の俳句にある季語がないのだ。だがこれには説得力のある回答が得られた。
四季のはっきりした日本では、その移り変わりが自然の美しさを表現するのに密接に関わっている。だが四季のないベトナムでは、必ずしも季語を取り入れる必要はないのである。